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仙台地方裁判所 昭和35年(ヨ)65号 決定 1960年3月16日

申請人 仙台観光自動車株式会社

被申請人 高橋富雄

主文

一  別紙目録記載の自動車及びこれに附属する鍵、自動車検査証、自動車損害賠償責任保険証書、タクシー営業許可証に対する被申請人の占有を解き、申請人の委任する仙台地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。

二  執行吏は、申請人の申出があつたときは、申請人に対し、右自動車につき、点検、整備並びに機能を保全するための修理を行うことを許すことができる。

三  執行吏は、その保管にかかる事実を公示するため、適当な方法をとらなければならない。

(注、保証金二六万円)

理由

別紙目録記載の自動車は、申請人の所有であり、申請人は被申請人等を使用しこれら自動車をもつてタクシー営業をしているものであるが、被申請人の所属する宮城県旅客自動車労働組合仙台観光自動車支部は昭和三十五年三月三日を期してストライキに突入し、被申請人は組合本部の指令に基き右自動車を、車庫に格納したうえ、出入口に繩や暗幕を張りめぐらす等の方法により申請人会社幹部の近接を拒否して完全に自己の支配下に置き、また各車備え付けの鍵、自動車検査証、自動車損害賠償責任保険証書及びタクシー営業許可証を自ら所持保管するにいたつた。かくては、自動車の機動性にかんがみ、みだりにその存置場所を転移し、或いは機に応じて生産管理の具に供し、申請人に不測の損害を加わえる恐れがある。のみならず、現に必要な整備等の保存行為をしないままで放置し、組合員の中には夜間自動車内に宿泊りしている者もあるが、かような状態が継続するに及んでは、シリンダーの錆び付き、バツテリーの自然放電による損傷、車体の荒廃を来たし、自動車の性能が著しく毀損されることが憂慮される。また、地方労働委員会においては近く職権調停に乗り出す模様であるが、当事者を妥結にもちこむまでには相当長期間が予想される。以上のことは申請人の提出した疏明方法によつて一応これを認めることができる。

しかして、かような事実関係のもとにおいては、事態の悪化を妨ぐため、前記自動車に対する被申請人の占有を解いて執行吏の保管に移すべきであるが、この場合右自動車を申請人自身に使用せしめることは、被申請人側の争議権の正当な行使を阻害する危険があつて相当でないので、ただ自動車の点検、整備並びに機能を保全するための修理に限り、申請人に許す程度にとどめることとした。

(裁判官 渡部吉隆)

(別紙省略)

【参考資料】

仮処分申請書

申請の趣旨

別紙目録記載の自動車に付き被申請人の占有を解き、これを申請人会社の委任する仙台地方裁判所所属執行吏の保管に付する。

被申請人等は別紙目録記載の自動車の自動車検査証、鍵、自動車損害賠償責任保険証書及びタクシー営業証明書を右執行吏に引き渡せ。

右執行吏は右保管に係る自動車及び第二項によつて引渡しを得たる物件を申請人会社に使用せしめること。

被申請人は、申請人会社又は申請人会社の命ずる者が右自動車を使用して運行することを、暴力を以て妨害してはならない。

右執行吏は右趣旨を適当な方法で公示すべし。

との仮処分を求めます。

申請の原因

一、申請人会社は、ハイヤー、タクシー業を営む会社であるが現に右に用いるため、自動車三十二台を所有使用し右運転業務に従事せしめるため運転手六十三名を雇傭している。

二、宮城県旅客自動車労働組合は宮城県内におけるハイヤー、タクシーの運転者を以て組織する労働組合であり肩書地に事務所を置いて組合本部となしている外、申請会社外各ハイヤー、タクシー会社毎に支部を設けている。

申請会社の運転者六十三名の中右組合員は二十八名であり、その余は非組合員であり、被申請人高橋富雄は申請人会社の組合支部委員長である。

三、昭和三十五年一月十四日右組合は組合員たる運転手の基本給を一ケ月金弐千円一律に増額すべき事外数項目にわたる要求をかかげて、労務対策協議会に対して所謂団体交渉の申し込みをしてきた。

右協議会とは、県下ハイヤー、タクシー業社の経営者が任意に集つて労務問題の研究並に懇親を計るクラブ的な存在であつて、右組合と団体交渉なし得る資格および権限を有するものではない。

そのため右団体交渉の申し入れは申請人会社を初め各会社毎にこれをなす旨の回答してきた。

四、所が右組合は、あくまで各会社を統一した右協議会を相手として団交に応ずる様要求してやまなかつたので、右協議会は各単位会社より団体交渉の委任をうける様努力し、昭和三十五年三月三日午前一時右交渉権を獲得した上で組合の要求する所謂統一団体交渉に応ずる旨同組合に回答し、同日午前三時より午前四時半に亘り右統一団交によつて組合の要求事項の交渉をなすべく努力した。

五、然るに、右組合は突如として右統一団交の開始に先立ち同日午前五時四十分過頃に午前六時よりストライキを始める旨電話通告し来り、午前六時より同盟罷業に入つた。

六、その結果右組合の指令に基き被申請人高橋は申請人会社の組合員たる運転者全員をして業務を放棄して申請人会社の各営業所前等にピケをはらしめ、別紙目録記載の自動車を車庫に格納し、或は自動車に備付けの検査証、営業証明書および鍵等を持ち出してこれを占拠するに至り、被申請人高橋は右組合の申請会社支部委員長をして右物件を現に占有している。

七、そのため、申請人会社の使用者側および非組合員である従業者等が右車両を使用して営業をなすことが不能となつた。

そもそもハイヤー、タクシー業は労働関係調整法第八条の公益事業と指定されている運輸事業に準ずる性格を有するものであるところ、前記の様に殆んど全車両が組合によつて占拠された為に顧客需要に応ずる事が出来ず且つまた経営上多大の損害をうける羽目になつた。又組合の前記占拠により自動車は数日に亘り放置されたままで火災等一朝有事の場合の処置が憂慮される状態にある。

八、右組合の前記スト等の争議は、前記労務対策協議会に申請会社を初め全ハイヤー、タクシー営業会社が団体交渉権を委任し右組合との団交に応ずることになり、その準備中不法にもこれを拒否しなした違法な争議であるが、たとえこれが適当な争議であるとしても、前記の如く被申請人等において申請人会社の生産手段たる自動車等を占拠し申請人会社および非組合員たる従業員の使用をも不可能ならしめる行為は明かに正当な争議行為の限界を逸脱しているものである。

九、申請人会社は、今日まで、再三に亘り口頭を以て別紙目録記載の自動車およびその附属物件の引渡しを要請したが、これに応じないので昭和三十五年三月十日内容証明郵便を以て即時右引渡しに応ずるように要求した。然るにいまだに右組合員はこれに応ぜずまた応ずる気配もない。

一〇、よつて、申請人会社は近日中右自動車引渡し等の訴訟を準備中であるが、右の事情に付き申請の趣旨記載の裁判を求めるため、本申請に及びました。

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